目の不自由な人の転倒予防
―目と平衡感覚、ビタミンDの転倒予防、ロコモ、骨粗鬆症―
目の不自由な人が転びやすいのは、見えないから物につまずくだけではありません
目は、物を見るためだけでなく、平衡を司る器官でもあるため、目が不自由になるとバランスをくずしやすくなります。
加えて、目が不自由になると、運動量が減り筋力が落ちるため、ますます転びやすくなります。
転倒を恐れて外出をひかえると、運動不足による運動機能の低下を招き、さらに自由に移動することが困難となりかねません。
最近ビタミンD不足が転倒と関連のあることがわかってきました。外出をする機会の少ない人はビタミンD不足になり、ビタミンDの不足は転倒しやすく、骨折の大きな原因となる骨粗鬆症にもなりやすくなります。
骨粗鬆症は骨折の、骨折は寝たきりの原因となります。
目の不自由な人の転倒予防というと、「歩行の技術を身につけ、環境の整備を行う」という面からの転倒予防が、いままで声高に話されてきました。ところが目の不自由な人のなかには、バランス能力を調べる片足立ちや、運動能力を示す歩行速度、さらに全身の筋力を示す握力などの検査で、基準値以下の人がたくさんみられます。
そのため、これからの視覚障害者の転倒予防には、
・平衡感覚の低下による、バランスの乱れ
・ビタミンD不足によるふらつき
・運動不足
・女性のやせ・骨粗鬆症・筋力低下
・栄養のかたより
など視覚障害者に特徴的と考えられる、平衡・バランス感覚、骨粗鬆症、ビタミンD不足・栄養障害も考慮した転倒・骨折予防の教育や研究も必要です。
高齢者の転倒は、しばしば雑誌に特集が組まれ、モノグラフもたくさん出版されています。ところが、つねに転倒の危険にさらされている視覚障害者の転倒・骨折予防についての検討は、残念ながら、我が国はもちろんのこと、外国であまり行われていないように思います。視覚障害者の自立、QOLの向上のためには、歩行技術や環境整備のほかに、平衡感覚の異常、ビタミンD不足、筋力低下などを加えた、もっと広い視点からの研究や検討がなされなければなりません。
目の不自由な人が「自分の行きたいところに自分の力で移動し、やりたいこと・やるべきことがやれる」ように、「体力をつけ、バランス感覚を養って、転倒を予防する」ことが、早急の課題です。
本書が目の不自由な人の転倒予防に役立つことを期待しています。