解  説

解説−1 ジャンピングクライムに関する基礎理論と計算手法 

(1)機体の縦の運動方程式
 
 ジャンピングクライムによる機体の運動は縦方向のみで、縦の運動方程式はX軸、Z軸およびピッチ軸の3軸の方程式から構成されます。以下は線形化された運動方程式で、トリム条件での定常運動、あるいは定常運動まわりの微小擾乱による動的運動の場合に成り立ちます。昇降舵δeと推進力δtの入力に対してピッチ角θ、ピッチ角速度q、迎角αおよび前進速度uが変動するように挙動します。
X軸:(D−Xu)u−Xαα+Wo q+(g cosθo)θ=Xδtδt
Z軸:−Zu u+{(Uo−Zα)D−Zα}α−{(Uo+Zq)D−g sinθo}θ=Zδeδe+Zδtδt
ピッチ軸:−Mu u+(MαD+Mα)α+(D2−MqD)θ=Mδeδe+Mδtδt
ここで、運動方程式の状態変数の係数には有次元安定微係数を使用しており、機体に関するパラメータから無次元安定微係数を計算し、これを有次元安定微係数に変換しています。

(2)空気の見かけの質量と地面効果

 空気の見かけの質量(付加質量)については、X軸方向、Z軸方向およびピッチ軸に関して考慮します。X軸方向の付加質量は主翼の翼厚を直径とする円筒分の空気の質量、Z軸方向の付加質量は主翼の翼弦を直径とする円筒分の空気の質量、さらにはピッチ軸方向の付加慣性モーメントは胴体の高さを直径とし、胴体の長さを高さとする円筒分の空気の慣性モーメントです。
地面効果は、主翼と水平尾翼の有効アスペクト比に関する以下の式を適用します。
 ARe=AR [{1 + 33(h/b)3/2}/33(h/b)3/2 ]
ここで、ARe :有効アスペクト比、AR:アスペクト比、h;高度、b;スパン長です。
 空気の見かけの質量と地面効果を考慮した運動方程式を状態方程式に置き換え、これをプログラム化します。

(3)シミュレーションの条件
 初期状態は高度1mにて定常水平飛行状態にあり、この時の飛行速度Uoは定常水平飛行速度より少し早い速度の状態としています。昇降舵の操舵は現実のパイロットの動作に基づいて上記シミュレーションでは以下の値としました。
 0〜0.5秒:−6°、0.5〜1.0秒 :0°、1.0〜1.5秒 :4°
なお、シミュレーション結果では横軸を時間(second)、縦軸を以下のとおりとした結果を出力しています。
 @水平速度(velocity)(m/s)     A迎角(angle of attack)(deg)
 Bピッチ角(pitch angle)(deg)    Cピッチ角速度(pitch rate)(deg)
 D昇降舵角(elevator angle)(deg)  E高度(height)(m)

解説−2 水滴が付着した主翼の空力特性 
 機体の組み立ては、湿度100%の濃い霧の中で行ないました。スチレンペーパーにGFRP加工した主翼には、明け方の冷え込みと、それ自身の大きな熱容量(高い断熱性能)が災いして結露が発生し、更に霧の付着で機体全体が直径2mm、厚さ0.5mm前後の小さな水滴に覆われました。以下、水滴が付着した主翼の空力特性について考察します。


朝露対策


水滴のふき取り作業

(1)機体に与える影響
 @水滴の付着により飛行重量が増加する A吸湿・吸水により構造材の剛性が低下する
(2)空力特性の変化(レイノルズ数:300000〜700000前後の場合)
 @抗力係数が大幅に増大する A失速角が極端に大きくなる B失速速度が低下する C揚力係数はあまり変化しない
 経験的には、迎角の増加に伴い空気抵抗が極端に増大しますが、失速に対しては鈍感になり、迎角20度位でも顕著な揚力係数の低下が見られません。揚力係数は緩やかに低下し続け、抗力係数が大幅に増大します。(迎角20度で抗力係数が大きいのは当然かも知れません)
 この現象は、MITのダイダロス開発時にも報告が有ります。我が国ではチームエアロセプシーが10数年前に行った風洞実験で確認されている他、我々もHYPER-CHicKのテストフライトや鳥人間コンテストの滑空機部門参加時に経験が有ります。
 一方、表面の濡れた翼について、レイノルズ数の小さな領域(100000)では空力的な性能が向上するが、高い領域(300000以上)では低下する報告が有ります。それによると、人力飛行機が使用するより更に小さなレイノルズ数域では抗力が減少します。我々が通常用いるレイノルズ数域では抗力が増大し、迎角では揚力係数が減少しています。それらの現象の原因として以下が考えられます。
 @ 飛行中の雨滴の衝突による影響  A 飛行中の霧による仮想的な空気密度の変化
 B 雨滴の付着による断面形状の変化 C 雨滴の付着による翼表面の剪断力の変化

解説−3 鳥人間コンテスト用シミュレーター“Bird for Windows”

練土研チャレンジチーム  乾 嘉行・吉田雄一

“Bird for Windows”は、鳥人間コンテスト滑空機の設計の活用に“練土研チャレンジチーム”が開発したシミュレーションソフトです。 内容は、鳥人間コンテストのプラットフォームから、滑空機が飛行する状況をパイロットの立場で再現しようとするものです。 '96年にバージョン0.86を公開して以来、幸い多くの皆様にご愛用頂いております。
 実は、私ども練土研ャレンジチームではいつかは人力プロペラ機にチャレンジしたいと考えていて、[bird]にも当初から隠れ機能として人力プロペラの機能を持たせており、[bird]を改良する毎に密かにこちらの機能も改良を続けていました。しかし、ご承知のようにフライトシミュレーションでは旋回や横滑りの再現性には高度な運動方程式を活用する必要があり、極めて難しいものがあります。事実、私どものフライトでも'95年は翼端失速からスパイラル旋回というフライトを経験しており、これを[bird]で再現するのに相当な時間とテクニックが必要でした。それでも尚、皆様に公開できる程の内容にはなっていないと思っています。そうした中で“アクティブギャルズ”が革新的な機体で飛行に挑戦されるとお聞きして何とかお役に立てないかと模索を続けてきました。相変わらず横滑り旋回のシミュレートには自信が持てませんでしたが、当面のフライトプランが直線飛行でピッチコントロールがメインになるとお聞きし“Bird for CHicK-2000”を開発する決心を致しました。開発当初は、ランニングテストで見させていただいた挙動がなかなか再現できず苦労しましたが、幸い、“アクティブギャルズ”CHicK-2000開発に向けて風洞実験をしておられ、その基礎データを提供頂く事ができましたので多少なりともフライト練習にお役に立てるものが完成してホッとしております。
 具体的には主翼の揚力曲線抗力曲線実験値に近づけるような線形を作成しましたCHicK-2000失速特性が再現されたというところです。“Bird for CHicK-2000”はとりあえずフライトコントロールの練習用に開発したものでプロペラ効率など重要な部分での詰めの甘いところがあります。幸い、吉川さんやパイロットの堀さんから評価をいただきましたが、開発サイドとしてはまだまだ不十分な部分が多いと反省しています。
 [bird]は皆様に育てて頂いたソフトです。今後とも忌憚のないご意見ご批判をお待ちしております。尚、“Bird for CHicK-2000”は、“アクティブギャルズ”のホームページからダウンロード出来ます。是非ドキドキする一瞬を体験して下さい!!