僕は高校の時に生徒会の副会長をした事があるのだが、任期中に県内や隣県の高校の生徒会役員が岩手県の某青年施設に集まって、オリエンテーションやらディスカッションをした事があった。これはその時に青森県の某高校の生徒会役員から聞いた話。

とある学校(中学か高校かは定かに覚えていない)のブラスバンド部が、多分夏休み中だと思うのだが、学校で合宿を行った。昼間はブラスバンドの練習をして、夜は学校の体育館に布団を敷いて雑魚寝をするといった具合だったそうだ。

その学校は作りが古く、体育館にはトイレがなかった。用を足す為には体育館から渡り廊下を通って校舎に行かねばならず、不便さを禁じ得なかった。体育館と校舎の途中にプレハブ小屋があり、学校ではそこを音楽室として使っていた。もちろんブラスバンド部の活動もそのプレハブ小屋だった。

「校舎と体育館を結ぶ渡り廊下の途中にプレハブ小屋があり、そこを音楽室として使っている」というのは、ちょっと現実味の無い設定かもしれないが、実は僕が通っていた中学校がまさにその通りの作りだった。最初にこの話を聞いた時は、「まさか僕の母校の話なのでは?」と本気で思ったものだ。実際どうなのかは分からないのだが・・・。

ある夜、体育館で雑魚寝をしていたブラスバンド部員の一人が、トイレに行きたくなって目を覚ました。真夜中に独りで学校のトイレに行くのは、正直な所怖かったが、まさか朝まで我慢するわけにもいかず、みんなを起こさない様にそっと起きて校舎へと渡り廊下を歩いて行った。

と、途中にあるプレハブ小屋から何か物音が聞こえてきた。「おや?こんな真夜中に誰かが練習してるのかな?」と思ったのだが、楽器の音ではない。なにやら踊ってるような感じだ。

そっと小屋に近づいて行って中を覗き見た時、彼は戦慄した。

プレハブ小屋に薄らと差し込む月明かりの中で、少女の上半身が向こう向きで床に置かれて、手を叩いている。そしてその下半身がリズムに合わせて上半身の周りをステップを踏みながらぐるぐると回っているのだ!

あまりの光景に、彼は思わず小さな悲鳴を上げてしまった。悲鳴と言っても、おそらく出した本人にしか分からないくらいのものだ。慌てて口をふさいだ彼は、見つかりはしなかったかとプレハブの中の様子を伺った。

相変わらず上半身が手を叩いてリズムを取り、下半身がその周りを踊りまわっている。「どうやら気付かれなかったようだ」と安心したその時、ふいに手拍子が止んだ。

ぎょっとした彼は慌ててプレハブ小屋の中を見た。その瞬間、向こうを向いてた上半身がくるっとこちらを向いた!「気付かれた!」そう思った途端、上半身だけの少女がニィッと笑った。彼は恐怖した。と、上半身の周りを踊りまわっていた下半身が、いきなり自分の方に駆け出してくるではないか!

「うわあああ!」恐怖で混乱した彼は、あろうことか校舎の方へと逃げ出してしまった。後から思えば、みんなのいる体育館の方へと逃げるべきだったのに・・・。

彼は夜の校舎を必死で逃げ回った。後ろを振り返る余裕はない。しかし、後ろから自分を追いかけてくる足音が確実に聞こえていた。「このままでは追いつかれてしまう」そう思った彼は、どこかへ隠れようと思った。「どこへ・・・そうだ。男子トイレなら入ってこれないだろう」滑稽な発想だが、混乱していた彼はそう考えると、迷わず近くの男子トイレに駆け込み、一番奥の洋式トイレに入ってドアを閉め、鍵をかけて息を潜めた。

・・・足音が段々近づいてきた。彼は絶対見つからない様に物音一つ立てなかった。と、トイレの中に足音が入ってきて探し回っているではないか!「見つかりません様に・・・見つかりません様に・・・」そう念じている彼の耳に「バン!」と大きな音が響いた。どうやら一番入り口側の個室のドアが蹴破られたらしい。

彼はトイレの便座に座ったまま、足をつっかえ棒の様にしてドアを抑えた。決して蹴破られない様に・・・。「バン!」2つ目のドアが蹴破られた。彼は恐怖で真っ青になり、死にもの狂いでドアを抑えた。

「バン!」3つ目のドアが蹴破られた。すぐ隣だった。相手は確実に自分を追いつめていた。「助けて下さい!助けて下さい!」彼は必死に心の中で念じていた。しかし次は自分のいる個室のドアが蹴破られる番だ。彼は目をつむって必死に念じながらドアを抑えた。しかし・・・

・・・1分経っても、2分経ってもドアは蹴破られなかった。目をつむったまま耳に全神経を集中して、物音を探った。いつの間にかトイレの中は物音一つしていなかった。足音も・・・聞こえてこない。

彼は用心深く音を探った。5分経っても、10分経っても、ドアが蹴破られないどころか、物音一つしなかった。「諦めた・・・のか?」20分ほど経った頃だろうか、ようやく彼は自分が助かったらしいと実感し始めて、恐る恐る目を開けた。。体中の力を抜いて行く。気付いてみれば全身汗びっしょりだ。「ふぅ・・・」深い溜息を吐いて、便座に腰掛けたまま彼は背中を壁の方に預け、何気に天井を仰いだ。すると・・・

なんと少女の上半身がドアの上部に手をかけて、上から自分を覗き込んでいるではないか!そして彼の方に「ニィッ」と無気味な笑いを浮かべた。

・・・朝になって起きた他の部員達が、姿の見えない彼を探した所、男子トイレの個室の中で気絶している彼を見つけた。彼が見たものが一体何だったのか、詳しい事は何も分からないという事だ。


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