これも「釜房の幽霊ホテル」にまつわる話である。

僕の大学の先輩にFさんという人がいるのだが、その人はある程度の霊感があり、こうした心霊現象に少なからず遭遇している人だ。これはそのFさんの妹さんの話。

Fさんの妹のYさんは、この「幽霊ホテル」の噂をもちろん知っていた。そんなある日、Yさんのボーイフレンド(男友達だったか彼氏だったかは良く覚えていないが)が、この「幽霊ホテル」が噂通りの所かどうか確かめに行こうと言い出した。

なんだかんだで結局行く事になり、2人は車で真夜中に件の「幽霊ホテル」へと向かっていった。

YさんはFさんの妹であるが、Fさん同様にちょっとした霊感のようなものを備えているという事だ。「幽霊ホテル」に辿り着いた時、その感覚がYさんに警鐘を発し、「これは行かない方がいい」と思ったらしい。

しかしボーイフレンドの方はそういった事が分からなかったので、結局Yさんを車に残して一人で建物を確かめに行く事になった。

人通りのない真っ暗な道路に、ポツンと自動販売機が立っていて、その周りだけ電灯が明るく灯っていた。ボーイフレンドは車をその自動販売機のすぐ横に停めて、「この明かりがあれば怖くないだろう」と言い残して独りで建物を確かめに行った。

車で独りボーイフレンドの帰りを待っていたYさんだが、自動販売機の明かりも手伝って、それ程怖いという事はなかった。

「まだ帰ってこないのかなぁ」と思っていると、前方からおじいさんがこちらの方へ歩いてくるのに気がついた。天下の公道だから、誰が歩いていても不思議はない。「ああ、近所に住んでるおじいさんなんだな」と思って何気なくそのおじいさんを見てると、そのおじいさんはどんどんこちらに近づいてくる。

「あれ?」と思ったが、何の事はない、自分の乗ってる車のすぐ横にある自動販売機でジュースを買いに来たらしい。Yさんは何の気無しにそのおじいさんを見ていた。おじいさんが小銭を入れて、ボタンを押す。かがんでジュースを取ると、Yさんの横を通って後方へと歩いていった。

しばらくしてボーイフレンドが帰ってきた。どうやら怪しいものは何もなかったようだ。その時にYさんが「さっきおじいさんがね・・・」と言いかけてハッとした。

こんな真夜中の人気のない山奥で、あのおじいさんは何をやっていたのだろう!?いや、それだけではない。あのおじいさんはどうやってジュースを買ったのだろう!?

自分の乗っている車は、少しでも明るい様にと自動販売機のすぐ前に停めているので、車と自動販売機の間には人が一人やっと入れるかどうかの隙間しかなかった。その隙間で、あのおじいさんは買ったジュースを取る為に、ごく自然な動作でかがんだではないか!?それだけのスペースが無いのは一目瞭然だ。

結局、怪奇現象は確かめに行ったボーイフレンドにではなく、待っていたYさんの身に起こったのだ。


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