大学生の時に先輩から聞いた話。ある街に「自殺の名所」があった。ある街、といってもそこは市街地から少し離れた山の中にあって、普段それほど人通りが多いわけではない。山間の渓谷にかかっている、なんの変哲も無い橋だった。ただ、この橋の真ん中から真下の渓谷に身投げする人が多く、地元では「自殺の名所」として知られていたという事だ。

ある晩、地元の大学生が友人の家で遊びに熱中するあまり、帰りが遅くなってしまった。時計はもう午前零時を回っている。「随分と遅くまで遊んでしまったな」と思いながら、彼は愛車であるスクーターを走らせて家路を急いでいた。

「・・・そう言えばあの橋を渡らなきゃならないのか・・・なんか気味悪いな」彼の帰路には例の橋があった。その橋には「自殺の名所」にふさわしく様々な噂があり、彼もそうした噂を耳にしていた。別に本気でそうした噂を信じているわけではなかったが、気味が悪い事に変わりはない。彼は一気に走りぬけてしまおうとアクセルに力を入れた。

ところが、である。スクーターがその橋に差し掛かった途端、見る見るうちにスピードが落ちていき、橋の真ん中あたりでとうとう止まってしまったのだ。「おいおい・・・マジかよ・・・」場所が場所だけに、彼は冷静さを保つのに必死だった。ガソリンはまだ残っている。メーターがそう示しているからだ。それなのにエンジンがかからない。セルを回してもキックペダルを踏み込んでもエンジンはかからなかった。

「ダメだ・・・」そう溜息を吐きながら、何気に手元のミラーを見た彼は、そこに映ったものを見て戦慄した。ミラーには自分が走ってきた一本道が映っている。その道の遙か向こうから、白装束を身に纏った人々の長蛇の列が自分の方に向かって歩いてくるではないか!しかもその列の先頭はすでに自分の所まで達しており、次から次へと自分に並んではミラーの端に消えていく。自分を追い越して更に前に歩いていっているのだ。

しかし自分の前方には誰もいない。橋の残り半分が続いてるだけで、その先は暗闇に溶け込んでいる。勇気を振り絞って後ろを振り返ったが、同様に自分が通ってきた道があるだけで人っ子一人いない。しかしミラーに目を戻すと、相変わらず白装束の列が自分の方に向かって歩いてくるのが映っている。

パニックを起こした彼は、スクーターを投げ出して無我夢中で走って逃げたそうだ。翌日友達を伴ってその橋に戻ってみると、そこには昨夜自分が置き去りにしたスクーターが道端に倒れていただけだったという。

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