【人力飛行機に於けるストレススキン翼開発の背景】

 人力飛行機に於けるストレススキン翼は、'85の クレーマー・スピード賞の最終獲得機 “マスキュレアーU”号が最も成功した例です。その後アメリカでは “マラソン・イーグル”号や “レイベン”号が採用しています。いずれも単桁のストレススキン構造で、スキンはフォーム材をグラスファイバーやカーボンファイバーでサンドイッチした複合構造が主流になっています。
 今後は日本でも、海外に通用する運動性能の追求に向けた研究開発が展開される事でしょう。 ストレススキン翼
はその一翼を担う有望な構造です。


図1.マスキュレアーU主翼断面図

(1) ストレススキン構造翼の採用理由

 一般に人力飛行機に用いられる翼型は、最大翼厚位置が比較的後方にあり、風圧中心もほぼその付近にありますから、 ストレススキン翼にとってはうってつけの断面で、 高い構造効率 が望めます。
CHicK-2000 の場合、主翼に用いた翼型; FX76 MP-160 は、最大翼厚が16%でその位置は前縁から30%にあります。スパーは、おおよそ風圧中心付近、翼弦長の36(翼根)〜43(翼端)%に配置しました。

[ストレススキン翼構造の採用理由]

@ 主翼のアスペクト比が43.7に達すると、 1本のカーボンパイプに全ての
応力を負担させる単桁構造では、構造重量の増加が、著しく 構造効率が
低下
する。
A 同じく、曲げや捻り応力による変形が過大 になる。
B 同じく、主要構造材の過大な変形が、外皮にシワやタルミ等の変形を 生じ、
主翼効率が低下する。
C 旋回飛行では、空力弾性を利用した釣り合い旋回を計画しているが、
主翼を捻り制御する為に 高い捻り剛性が必要


写真2.大アスペクト比のCHicK-2000

(2) CHicK-2000が採用したストレススキン翼の構造

通常のストレススキン翼は、雄型、雌型を用いて製作されています。我々が今回開発したストレススキン翼は、
  @ 機体がプロトタイプである 
  A 製作・保管・運搬・取り扱い上の制限が多い 
  B 型の製作に膨大な時間と費用を要し、高度な工作精度の確保が必要
等の理由により、型を用いない製作方法を考案しました。


写真3.主翼製作中(リブの組み付け)

  1. スパーとリブを配置 
  2. 外部をスチレンぺーパーでプランク 
  3. 更にその外部をGFRP加工 
  4. フイルム貼りで仕上げる 
と言う 初歩的で製作しやすい構造 にまとめました。

写真4. 主翼製作中(プランク) 写真5. 主翼接合部
  

(3)ストレススキン翼のデメリット

CHicK-2000が採用したストレススキン構造のデメリットを以下に掲げます。

@ 材料のヤング率が、リブや外皮に用いている発泡スチロールで10の2乗(kg/cu)、スパーのフランジに用いているCFRP材で10の6乗(kg/cu)と、両者には1万倍以上の開きが有ります。このような材料を構造材に用いた 複合構造は、各々の材料の境界条件が複雑に関わり合い、静的荷重は勿論、動的荷重による変形予測が非常に難しい。 計算値と実験値の整合性は、スキンの加工技術や品質管理に依存します。

写真6. 載荷試験(1.0G載荷途中) 写真7. 載荷試験(1.0G載荷完了)

A 接合部の応力伝達方法が複雑に成ります。スキンの不連続位置で捻り応力の伝達経路が変化します。 CHicK-2000では スパーと前・後縁に配置したステーで応力を伝達する方法を採用しました。
B 製作に膨大な手間を要する。

C スチレンペーパーにハンドレイアップでGFRP加工した厚さ0.5mmにも満たないスキン品質のばらつきが大きく、重量管理や品質管理が非常に難しい。弾性定数や境界条件の設定も測定誤差が大きく、疑問が多いのが本音です。

D 完成後の取り扱いが難しい(神経質)。

Eこの形式の複合構造の主翼は、荷重が解放された後に残留歪みが生じ易い。載荷試験で除荷後に4%の残留歪みを確認しました。

F GFRP加工に浮きやフイルムに気泡が生じ、メンテナンスが厄介。


捻り試験(後縁側集中荷重)

G スチレンぺーパーやバルサの吸水性が高く吸湿による強度低下を招く。主翼表面が結露したり、ガス(霧)の中で機体の組み立てを行うと、主翼が吸湿し、強度の低下を招きます。ウエブにバルサを用いている事にも注意が必要です。現在、実用上の大きな問題は生じていませんが、Fの主翼表面のGFRP加工が浮いたり、フイルムに気泡が生じたりする原因の一つとも考えられます。 


主翼ツイストのエアーポンプを使ったテスト

H 弾性軸の把握が難しい。飛行張線の取り付け位置や 空力弾性を利用した主翼の捻り制御には、 弾性軸の正確な把握が重要 です。